井澤由美子の食薬ごはん Yumiko Izawa

食薬ごよみ

四季のサイクルに合わせて食すことが、身体を健やかに導く手助けをしてくれます。
季節の食材とその由来や歴史、食にまつわるお話をご紹介します。

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鯛・桜鯛・花見鯛・鯛茶

春を代表する旬魚の鯛。朱色をまとって北上する桜の季節の真鯛を「桜鯛」「花見鯛」と美しい名で呼びます。
鯛は白身の魚ですが、海老を食べるので殻に含まれるアスタキサンチンが身に影響するのだそうです。縁起の良い魚として昔から珍重される鯛は栄養価も高く、タウリンが豊富で低脂肪。高タンパク、低カロリー、消化吸収もよいので胃腸の弱い人やお年寄りにもお勧めです(鯛の骨には充分気をつけて)。

鯛は昆布締めなど、塩分が入ると表面がねっとりとする魚で、それが美味しくてお鮨や散らし寿しにすることもあります。平らな昆布を用意して、表面を酒でふき、刺身を重ならない様に並べて挟みます。ラップできっちり包んで冷蔵庫で3〜5時間ほど寝かせます。鯛は昆布締めや、いり酒などでいただくと味わいがよくわかります。
山葵をたっぷり添えた鯛茶も美味しいですね。いつものゴマダレを極上にしましょう。乾煎りしたクルミやカシューナッツ、松の実などのナッツをごまとすり鉢に入れてめんつゆ程度のタレとすり混ぜます。この濃厚ゴマだれに浅めの昆布締め鯛をくぐらせて炊きたてのごはんで半量をいただき、残りは煎茶をかけて2度楽しむ。毎年の贅沢な楽しみ方です。

3/20

七十二侯・春分の日・お彼岸・いなり寿司

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桜が美しく咲いています。春分の日、春のお彼岸ですね。雀初巣(すずめはじめてすくう)雀が巣作りを始める頃の初候。夜が短くなり、昼間が徐々に長くなって、本格的な春を迎える季節の変わり目になりました。

お彼岸にお供えするお料理は、季節の野菜で作る精進料理や天麩羅、お赤飯、おいなりさん、おはぎ、ぼたもちなど。地方によっては彼岸そば、彼岸うどんなど食べる風習があります。基本的に魚や肉、卵、五葷(ごくん・ねぎ、らっきょう、アサツキ、ニラ、にんにくなど匂いのあるもの)などは用いないようにします。

今日はお揚げを炊いて、祖父母の好きだった蓮根とゴマをたっぷり入れたおいなりさんを作ります。お揚げの上手な炊き方です。揚げは出来るだけふっくらしているものを買う。お箸を揚げの上に置き、コロコロと押しながら数回転がして半分に切る。熱茹で数分茹でたら、水でゆすいで水気を絞る(私は半量の揚げを裏返し見た目2種にします)。鍋やフライパンに揚げを出来るだけ平らに並べる。甜菜糖大さじ4〜6、醤油、酒、みりん各大さじ3、出汁300ccを入れ、厚手のキッチンペーパーをかぶせて弱火で15〜20分煮含める。冷めたら汁気をとります。後は薄切り蓮根のシャキシャキ感が心地いい甘酢漬け入りの酢飯を詰めて出来上がり。

酢飯の簡単な覚え方があります(お米1合には酢、砂糖各大さじ2、塩大さじ半が目安。お米を炊く時の水分量は少なめに)。

甘辛のお稲荷さんに柚子やスダチをさっと絞っていただくのも美味ですよ、ぜひお試し下さい。

 

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蓬・デトックス・カムイノヤ・医草・エルブロワイヤル

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新芽のよもぎを見かけるとつい手にとってしまいます。やわらかいよもぎは風味も優しく、緑茶に加えていただくとふわりと香り、お茶との効能で脳がシャキりとします。

野草は春の息吹、香りが豊かで繊維が豊富。苦味は、虫から身を守るためのアルカノイドに由来する成分で、デトックス効果が高いそうです。

春ならではの滋養がいっぱいのよもぎ餅は格別です。よもぎはよく洗って汚れを取り除き、硬い部分があれば落とします。大きめの鍋に湯を沸かしてよもぎと重曹少々を入れて茹で、冷水にとる。後は水気をしっかり絞ってハンドミキサーにかけるか包丁で細かく刻めば下ごしらえは完了。もち米と合わせた、つきたての柔らかいよもぎ餅を香ばしく焼く。お醤油はひと垂らし、苦味のような緑香が口いっぱいに広まって元気がでます。

よもぎには炎症作用や止血作用もあるので、傷や虫さされには葉をもんで貼るとよいそう、お風呂に入れる風習も昔からありますね。邪気を払い、神経痛や肌荒れにも効果がありお灸にも使用されています。婦人病にもよいので韓国のよもぎ蒸しなどは有名ですね。

よもぎはアイヌ語でカムイノヤ「神の草」と呼ばれ、さまざまな料理にも使われています。フランスではエルブロワイヤル「王の草」、中国では「医草」と呼ばれ、薬膳では血をきれいにするとされており、世界中でその効能が認められています。

 

3/10

ニラ・デトックス・疲労回復

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春の柔らかそうなニラが出回っています。食欲増進、疲労回復に良いとされるニラは、最も調理しやすい野菜ですね。ニラレバやニラと豚肉炒めなどはシンプルですが、ニラのアリシン、カロテン、肉のビタミンB1などが合わさって相乗効果のある組み合わせです。

ニラの効能を使った昔ながらの民間療法も沢山あります、嘔吐やゲップにお困りの方は、ニラをさっと茹でて絞ったものと、生姜をおろして絞ったものを牛乳で溶いて飲む。腰痛や肩こりには、熱燗を呑みながらニラのお浸しなどをお酒のお供にいただくなど。

薬膳では、ニラには止血効果もあり、鼻血、不正出血などに良いとされています。ですが作用が強いので胃腸の弱い方、小さなお子さんは少し控えめになさって下さい。

ニラはお腹のホウキと呼ばれるほど便通効果も高い野菜。さっと茹でてすり胡麻などと和えれば、栄養効果と共に相乗効果が上がります。

3/9

春野菜・デトックス

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春野菜が美味しい季節になり、店頭では柔らかそうな新玉ねぎや春キャベツ、新じゃが芋、新ごぼう・春人参などがお目見えしています。水分が多く皮が薄いので、火の通りが早く調理もとても楽ですね。皮に栄養があったり香りもあるので、素材がよければそのまま使用することも。

旬の食材は、季節の起こりがちな症状を改善したり、トラブルを未然に防いでくれる効能を持っています。春は体内に溜め込んだ毒素を排出しようとするので、解毒器官である肝がフル回転する為ダメージを受けやすくなります。

補う食材は、苦味のある山菜や、人参などの緑黄色野菜、アブラナ科のキャベツやブロッコリーなど。春に多く出回る柑橘類やイチゴなどの酸味のあるものなども肝の働きを助けます。肝腎要の肝を労わると、体の余分な毒素を排除し、栄養を吸収しやすくするので、自然治癒力を高めることに繋がります。

今日はNHK「あさイチ」さんで簡単に作れるキャベツと新玉ねぎのシンプルレシピをご紹介させて頂きました。

3/6

セロリ・セルリー・オランダミツバ・アンチョビセロリ

もともと薬草だったセロリの独特の香り成分には、春先に起こりやすいストレスを軽減する効果が期待できると言われています。中医学では特に頭の余分な熱をとり、のぼせやイライラにも有効とされています。栄養学ではキャベツと同じように、ビタミンUも含まれるので、胃の粘膜を修復する手助けもします。特に栄養価が高い葉は、刻むなどしてぜひ調理して下さい。カリウムも豊富で、血圧が気になる方にお勧めの野菜です。

一番好きな食べ方に、アンチョビセロリがあります。筋を取ったセロリを5cm幅に切り、氷の上に置いたら、軽く刻んだアンチョビを散らし、レモン果汁をたっぷり絞ります。この上に挽きたての胡椒を散らすだけですが、アンチョビの塩気とレモンの酸味、セロリの香りと三位一体になって後を引きます。冷たいことも美味しさのポイントですよ、よく冷えたスパークリングや白ワインのお供にピッタリです。現場で手軽に作れるので、春先のピクニックやお花見などにもお勧めです。

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蕗の薹・山菜・春の息吹

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春の訪れを告げるふきのとうは日本原産の山菜。春先のスキー場で見つけては母にお土産にしていた頃が懐かしい。天然のつみたては色も良く、香りを堪能しながらのほろ苦が美味。漢方では、乾燥褪せたものは解毒などに効く生薬となるそうです。

ふきのとうを手にしたら、とにかく早く調理して香りと水分が逃げないうちにいただきます。摘みたてを天麩羅にすると香りがグンと開きます、葉を広げるようにして薄い衣に潜らせてサッと揚げると花のようになって可愛らしい。白身と混ぜてお椀に落としたしんじょうもオツ、おかわりしたくなる美味しさです。

ふきみそは、ごはんのお供や、田楽、和え物など何にでも合うので毎年沢山作りおきます。まず、ふきのとうを開いて水で洗い、熱湯でさっと塩茹でしたら冷水に晒して水気をギュと絞ります。刻んでごま油で炒め、味噌、きび砂糖、酒を馴染ませ、隠し味にほんの少しのお醤油を加える。細かく切って白味噌とすリ混ぜれば料亭風、ほろ苦がみが美味しいふき味噌の出来上がりです。

春の山菜の苦みは、冬に溜まった体の老廃物や毒素を排出するなどデトックス効果が高いので、この時期は特に口にしたい食材。花粉症などのアレルギー症状を緩和する手伝いも期待できそうです。旬は短し、様々な春の苦味を堪能します

2/25

クレソン・ウオータークレス・オランダガラシ

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デトックス作用が強いクレソン。別名をウオータークレス、和名を水ガラシ、オランダガラシと言います。
抗酸化作用のあるBーカロテンやビタミンCが豊富です。口にすると奥底に、ピリッとする少しの辛さが感じられます。これは、ワサビや大根の辛味成分と同じシニグリンによるもので、消化を助ける効果があります。薬膳では利尿作用があり、血流を良くする野菜とされています。

清々しいクレソンは、大人になってから好きになった香味野菜。胃腸の調子を良くし食欲増進効果があり、口の中もサッパリさせてくれるので、肉料理の付け合せやサラダに最適です。

私が一番好きな食べ方は、クレソンをたっぷり食べられる “ お鍋 ”です。春のクレソンは茎が細めで柔らかでお鍋に向いていますよ。昆布出汁が入った鍋に、鶏つくねのたねをスプーンで丸くポンポンと落とし、火を通したら、クレソンをそっと横たえるように置いてサッと煮ます。
野菜はクレソンだけで楽しむ方が、味が濁らなくていいと思います。その他に、冷水でシャキッとさせたクレソンを千切ってボウルに入れ、ごま油でカリカリに揚げ焼きして和えたジャコのサラダもシンプルで美味、クレソンの昆布締めもオツです。

 

 

2/22

若布・海藻・昆布・美髪

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大きなめかぶを目にします。腎の働きを良くする海藻類は、女性特有のトラブルにも良いものです。中医学では(髪は血の余りである)とされており、髪がきれいな人は十分に血液がまわっている証拠と考えます。食から髪にツヤを与えるには海藻類、果物、野菜などのヨードやビタミン類が豊富なものを積極的にとり、卵や牛乳、豆類、魚、肉などの良質なタンパク質で毛髪の成長をうながすことが大事です。因みに足の内くるぶしのくぼみにある(大けい)をマッサージすると、効能が上がって疲れもとれます。

海苔とひじきの佃煮などを作りおくとごはんのお供にも最適です。わかめやひじき、海苔(湿気ってしまったものでもok)などを出汁、醤油、みりんで煮詰めるだけ。ついでに高野豆腐などを刻んで加えれば、バランスの良い惣菜になり、お弁当などにも重宝します。

写真は小樽で食べた「細め昆布」3月までしか漁ができないそう。うすくなめらかでとても美しい、お刺身やしゃぶしゃぶなどでいただきます

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牡蠣・不眠・味覚障害

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見るからに美味しそうなぷっくりとした牡蠣。牡蠣は味覚障害を緩和する手伝いをするそうで、亜鉛と鉄分を多く含むので貧血予防や不眠にもお勧め、栄養豊富です。
牡蠣は「酒毒を消す」とも言われており、お酒のお供にも。薬膳では腎機能を助け、肌に潤いを与えるとされています。海のミルクの所以ですね。

生食なら、剥きたての冷たい牡蠣にレモンをギュッとしぼり、ぜひタバスコ少々ふって下さい。全体がしまって美味しいのと、殺菌効果や生臭さを消す作用もあります(タバスコは牡蠣の為に作られた説もありますね)。

牡蠣の旨味と香りをたっぷり堪能できる炊き込みごはんは、酒、醤油、本みりんを煮立て牡蠣をさっと煮て、一度取り出します。旨味のでた煮汁に水を足し、お米と炊きます。炊き上がったら牡蠣をもどして少し蒸らします。さっくりと混ぜて器によそい、柚子の皮を削るか、山椒の葉を散らせば至福の時が来ます。